ある工場に日本から社長が訪れた際、「最近、不良品が多いので、生産性も重要だが、まずは品質を優先して進めてほしい」と指示を出しました。この言葉を聞いた管理者は、そのまま同じ言葉を部下に伝えました。しかし、部下たちは具体的に何をすればいいのかわからず、ただ聞き流してしまったのです。
社長や上層部の指示は、製造、品質、人事、経理、総務など、さまざまな部署の全従業員に向けられるため、一つの指示で伝えなければならず、どうしても抽象的になりがちです。管理者の役割は、上層部からの抽象的なメッセージや指示を、現場の部下たちが実行できる具体的な行動に落とし込んで伝えることが大切です。そのためには管理者は次の3項目を理解することが必要なのです。
1:意図を正しく読み取る
管理者が上層部の指示を部下に的確に伝えるためには、まずその指示の「背景」や「意図」を深く理解することが必要です。
■指示の背後にある課題を探る
管理者は、なぜ今この指示が出てきたのか、その背景を深く掘り下げて考える必要があります。例えば、最近不良品が著しく増加している、特定の製品に対する顧客からのクレームが多発しているなど、具体的な課題が隠されていることがほとんどです。これらの表面的な言葉の裏にある真の課題、すなわち「指示の真意」を管理者自身が正確に理解することが極めて重要です
■聞き返す、確認する姿勢を持つ
上層部からの指示が不明確な場合、それをそのまま受け入れて部下に伝えるのは避けるべきです。情報が不足していると感じたら、臆することなく上司に確認する姿勢を持つことが重要です。例えば、「品質を優先してほしい」という指示であれば、「具体的にどの製品の品質を指していますか」といったように、指示の背景にある意図を掘り下げる質問をすることで、背景や意図を正確に理解できるようになります。
2:具体的な行動に落とし込む
抽象的な指示を部下がすぐに実行できる行動レベルに落とし込むことが、管理者の重要な役割です。
■行動すべき作業を細分化する
抽象的な指示を実際の行動に落とし込むには、まずその指示を具体的な作業単位に分解することが重要です。たとえば、「不良品を減らす」という大きな目標がある場合、「〇〇工程のチェックリストの見直し」や「□□工程の作業手順書の改訂」といった形で、何をすべきかを明確にします。さらに、具体的な手順と方法を示す必要があります。例えば、「〇〇工程のチェック項目見直し」であれば、「現状のチェックシートを現場の実情と比較確認し、不備がある項目を特定する」といった具体的なステップを明示します。
■「誰が・いつ・何を行うのか」を明確にする
細分化した各作業については、「誰が・いつ・何を行うのか」を具体的に設定しておくことが重要です。例えば、「Aさんが今週中に〇〇工程の作業手順書を確認し、実際の現場作業と内容にズレがある場合は、その修正案をまとめて上司へ提出する」といったように、担当者・期限・作業内容・進め方を明確に示すことが必要です。こうすることで、部下が「何をすればよいか」に迷うことなく、自信を持って指示に取り組めるようになります。
3:伝達方法を工夫し、理解度を高める
部下が指示を正しく理解し、自分ごととして受け止めるように、伝達方法を工夫します。
■簡潔で分かりやすく伝える
複雑な内容や専門用語を避け、現場の部下が誰でも理解できるような簡潔かつ分かりやすい言葉で指示を伝えることが重要です。また、特に重要な指示や、後から確認が必要となるような内容は、単に口頭で伝えるだけでなく、指示書や図解入りの資料を渡すなど、形に残る形で共有することが効果的です。これにより、部下はいつでも内容を見返すことができ、理解のずれを防ぎやすくなります。
■指示の背景にある意図を共有する
部下に指示を伝える際、単に「何をすべきか」という行動だけでなく、その指示が出された背景にある意図を詳しく共有することが重要です。例えば、「品質を優先する」という指示であれば、「顧客からのクレームが増加し、信頼回復が急務であるため」といった具体的な背景や、最終的に目指すべき目標を説明します。これにより、部下は指示が単なる作業としてではなく、意味のある活動として認識するようになります。