工場では作業点検や安全点検の際に「指差し呼称」を当たり前のように行っています。先日、私は管理者に「この指差し呼称は何のために行っているのか」と質問したところ「安全のためです」と答えたのです。これは間違いではありません。ただ、そこに思考が止まっていると、かえって危険なのです。「安全のため」と理解していると「実際に事故が起きてないんだから、指差し呼称など、やらなくても良い」と考えてしまうからです。この慢心こそが事故の入り口なのです。職場の安全を維持するために、管理者は指さし呼称をなぜ行うのか、その理由を深く理解して、従業員に伝えていくことが大切なのです。
1:注意力を強化するため
指さし呼称は、単なる形だけの動作ではありません。これは脳に「今から集中するぞ」と注意力を強化する動作なのです。
■集中力と注意力を高める「意識化」
指さし呼称は、目で見ている対象を指差し、声に出して確認することで、「意識化」を促します。例えば、「バルブよし!」と指さし呼称する際は、単にバルブを見ているだけでなく、そのバルブが正しい状態にあるか、異常がないかといった具体的な情報を脳にインプットしています。この一連の動作が、作業に対する集中力を高め、普段見落としがちな細部の異常にも気づけるようになるのです。
■エラーを防ぐ仕掛け
人間は、一度に多くの情報を処理しようとすると、ミスを犯しやすくなります。また、慣れた作業ほど、無意識のうちに作業を進めてしまい、確認を怠る傾向があります。指さし呼称は、この人間の習慣を逆手に取ったエラーを防ぐ仕掛けなのです。指差し、声に出すという物理的な動作が加わることで、確認すべき対象に強制的に意識を向けさせ、情報の見落としや誤認識を防ぐことができます。
2:「自己確認」でエラーを減らすため
人間は誰しも、思い込みや見落とし、気の緩みからミスを犯す可能性があります。指さし呼称は、そうしたヒューマンエラーを未然に防ぐための、最もシンプルかつ効果的な「自己確認」の方法なのです。
■作業慣れの油断を断つ
日々の作業に慣れすぎると、つい無意識にこなしてしまうことがあります。指さし呼称は、作業慣れによる油断を断ち切り、一つひとつの動作に意識を集中させることで、「危険察知」を高めます。例えば、普段は見過ごしていたメーターの微妙な異常や、機械のわずかな異音など、指さし呼称を通じて初めて気づく情報が数多くあります。これにより、重大なリスクを見逃す可能性を大きく減らすことができます。
■「だろう」から「かもしれない」への意識転換
指さし呼称は、安全を過信しがちな「大丈夫だろう」から、常に危険を予測する「危険かもかもしれない」へと意識を転換する上で非常に有効です。例えば、「この機械はいつも正常だから大丈夫だろう」という安易な思い込みではなく、「もしかしたら異常があるかもしれない」という危機意識を持って指さし呼称を行うことで、普段見逃してしまうような小さな異変にも気づけるようになります。指さし呼称は、この危機管理意識を常に高いレベルで維持するための、日常的なトレーニングでもあるのです。
3:安全意識を共有するため
指さし呼称は、単なる個人の安全確認にとどまらず、チーム全体で安全を意識し合い、守り合うための強力なツールでもあります。全員が同じ動作を通じて、安全意識を外に表現し、お互いの安全意識が共有できるのです。
■誰でも分かる行動である
指さし呼称は、視覚的にわかりやすい行動です。作業の経験が浅い新人であっても、「現場ではこうやって安全を守っているんだ」ということが一目で伝わります。説明がなくても伝わる動作は、それだけで現場全体のルールや姿勢を表現するものになります。指さし呼称は全員で安全を共有するための「共通動作」として、大きな意味を持ちます。
■緊張感を保つ「現場の雰囲気づくり」
現場では、誰かが確認動作を省略したり、雑な手順で作業していれば、それが当たり前のように伝染していき、現場全体の緊張感が緩んでしまいます。しかし逆に、全員が真剣に指さし呼称を行っていれば、緊張感に包まれた雰囲気が自然と生まれ、職場全体の安全意識が高まります。このような雰囲気は、上司やリーダーだけがつくるのではなく、一人ひとりの行動が積み重なって生まれるものなのです。