■作業員が現場のムダを見過ごしていた
私はある工場で生産性向上の指導を行っていました。管理者と現場を観察していると、作業員が液体を積んだ台車を運んできました。管理者は「あの液体は1日2回交換するルールとなっているのです。交換時にはラインは停止しないので、生産性には影響がありません」と説明しました。しかしよく見ると液体が床にこぼれてしまい、ラインの作業員が作業を止めて、床の清掃を始めたのです。
私は「ラインが停止しているぞ」と指摘して詳細を確認したところ、この作業では毎回、液体がこぼれてしまい、そのたびにラインの作業員が作業を止めてこの清掃を行っていたことが判明したのです。私は「生産性向上のためには、作業員がわずかなムダでも気付いて、それを報告させることが大切だ」と指摘して、作業員がムダに気付き、それを報告させるための手法を指導したのです。
■作業員にムダに気付かせて報告させる手法
今回のように、作業員がムダを認識していない状態では、生産性向上はうまく進みません。だからこそ管理者は、作業員にムダを正しく理解させたうえで、それを自ら報告させるように指導することが必要なのです。
1:ムダを理解させる教育を行う
作業員は日常の一部となったムダを問題とは捉えません。だからこそ、管理者はムダとは何かを理解させる教育を作業員に行うことが必要です。
■ムダとは何かを明確にする
作業員が理解しやすいムダとしては、手待ちのムダ、運搬のムダ、加工のムダ、不良や手直しのムダなどがあります。これらを実際の具体例を交えて分かり易く説明します。例えば、今回の事例のように「液体がこぼれて清掃する」という行為は、「不良や手直しのムダ」にあたり、清掃のためにラインが止まる時間は「手待ちのムダ」に該当することを理解させます。
■わずかなムダの影響を教育する
作業員が「これくらいは仕方ない」と感じる「わずかなムダ」が、累積するといかに大きな損失となるかを、具体的な数字や時間で可視化して伝えます。例えば、今回の液体こぼれの清掃が1回5分として、1日に2回、それが毎日発生すると、1ヶ月で約4時間ものロスになることを説明します。
2:ムダの報告の仕組みづくりを行う
作業員がムダに気づいても、管理者に報告しなければ改善は進みません。管理者は作業者が気軽に、かつ継続的に報告できる仕組みを作ることが重要です。
■報告の方法を明確にする
作業員が小さなムダを発見したと言って、作業中に班長に報告するのは勇気が要りますし、その間ラインは止まってしまいます。ですから、朝礼等の時に、班長が「昨日は現場でどのようなムダがありましたか」「どの作業で時間が掛かりましたか」などと作業員に質問して、口頭で報告してもらうように促します。これにより、作業員は口頭で簡単に報告できるようになりますから、報告のハードルが下がるのです。
■ムダの報告を歓迎する
作業員はムダに気づいても「こんな小さなムダを報告しても意味がない」などと感じることがあります。管理者は例えわずかなムダでも「よく気付きましたね」「報告してくれてありがとう」と報告した作業員を褒めるようにします。また報告によりムダが改善された場合は「報告のおかげで5分のロスが減った」などと成果を共有します。これを繰り返すことで、作業員は「小さなムダでも報告して良い」と感じ、報告の意欲が高まります。
3:ムダの見える化を行う
作業員にムダに気づかせるためには単に作業員の意識に頼るだけでなく、ムダが発生したらすぐに誰でも気付けるような現場環境を整えることが大切です。
■作業標準書を活用する
ムダの見える化の最初のステップは、作業標準書を明確にし、それに記載ない作業が発生したらムダであると理解させることです。例えば今回の液体補充のケースであれば、「〇分以内に補充を完了し、床に液体をこぼさない」といった具体的な手順を定義します。そうすれば床にこぼした液体を清掃することはムダであることに気付くようになるのです。
■5S活動を徹底する
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底は、ムダの見える化において基本中の基本です。整理整頓がされていない現場では、モノや情報が埋もれてしまい、ムダがあっても誰も気づけません。逆に5Sが徹底されている現場では、異常やムダが自然と目につくようになるのです。