日本軍の敗戦は「品質管理」が原因か?
日本の製品は国際的には品質優秀の代名詞とも言えるくらいの品質を誇っています。この品質管理が日本に本格的に導入されたのは第二世界大戦の後でした。では品質管理が導入される以前の日本の工業製品のレベルはどのようなものだったのでしょうか。一般的に国の最高技術、品質が最も顕著に現われるのは軍事兵器と言われています。その国が持っている最先端の技術の投入と厳しい品質管理が行われているからです。
第二次世界大戦は各国とも持てる最高の技術、資金、人材を投入して行われた国家総力戦であり、技術革新も目覚しいものがありました。レーダー、ジェット機、ミサイル、そして原子爆弾などはすべて第二次大戦中に開発された兵器です。日本も「零式戦闘機」「戦艦大和」など世界に誇る兵器があったため「日本の兵器は優秀だったに違いない」との印象を持つことが多いのですが、史実を調べて行くと零戦、大和などは例外中の例外で一般的な兵器の品質はかなり劣っていたことが分かります。
例えば、第二次大戦中の日本軍の代表的な小銃は三十八式歩兵銃でしたがこの小銃の図面は正式図のみで、なんと各部品の制作図がありませんでした。従って部品には「公差」もありませんから一挺づつ「名人」と呼ばれる職人が部品を調整しながら組み立てていったのです。そのため同一規格で生産された小銃でありながら部品の交換はほとんどできなかったのです。工業製品の生産に「公差」がなければ「品質管理」の概念があるはずもなく、品質は職人の経験と勘に頼っていたのですから職人の腕によってかなりのバラツキがあったはずです。同じ時期に米軍では大量にM3と言う短機関銃を制作しようと自動車メーカーのプレス技術に注目、ゼネラル.モーターに開発を依頼しています。このプレス技術により生産性と信頼性は飛躍的に向上、このM3は現在もアメリカ軍で使われており、日本の自衛隊でも一部で使用していることからもいかに品質が優秀であったかが分かります。
作家の山本七平氏は陸軍少尉としてフィリピンに赴任した際、兵器係を兼務していたため押収した米軍の小銃、自走砲、重機関銃、無線機、砲弾、雷管、爆薬などの兵器の分解、点検、試写を行いました。氏の感想は「日本製の兵器も外観は同じだが、材質とバラツキには天地の差がある。米軍の戦術は日本軍同様、田舎五級かもしれないが、兵器に関しては米軍は八段である。私は絶望感に襲われた」とあります。山本氏の指摘によれば兵器作りの「名人」が次々兵隊に取られてしまうため最新兵器ほど品質が悪くなってくる珍現象もあり、日本軍、米軍の兵器を実際に自分で厳密に比較、操作した経験から「日本軍は欠陥兵器集団であった」と断言しています。
また作家の安岡章太郎氏の記述によれば「歩兵の一個中隊には機関銃が4挺あるが、そのうち3挺が稼動することはまず皆無に近かった。機関銃の名射手というのは射撃のうまい人間じゃなくて修理のうまい人間をいうのだ」とあります。
他にも航空機を生産してる工場では受入検査の概念もなくまた不良品も多かったので届いた部品を箱ごと床に落として壊れなかった部品だけ使うなど荒っぽい受入検査を行っていたところもあります。戦争中の史実を丹念に調べていけば日本の敗戦の一因には「品質管理の欠如」があるのでは、と思わせるほどこのような話は山のように出てきます。